ディープでも新しくもある鍾路(チョンノ)の楽しみ方
吉村剛史(トム・ハングル)
2018/04/22 改:2019/10/05
ソウルの中心街、鍾路(鐘路、チョンノ、종로)と表記。鍾路といえば、朝鮮時代からの歴史ある大通り。その鍾路を街としてみたときは、ソウル駅から地下鉄1号線で二駅の鐘閣駅のあたりを指します。
駅の出口を出ると、その交差点には鍾路のランドマークとなる「鍾路タワー」があります。ここには日本統治時代の1931年から1987年まで和信百貨店というデパートがありましたが、ここから南に数百メートル行くと、その時代からの中心街、明洞(ミョンドン)があります。
[鍾路タワー]
その鍾路(チョンノ)の左右には六矣廛(ユギジョン、육의전)という特権商人たちが集まっていました。
鍾路の大通りは馬で高官が移動し、それを避けるように発達した庶民的「ピマッコル」という情緒ある路地は、2009年の再開発で姿を消しましたが、その面影を残すようにビルが建てられて新たに整備されています。
[鍾路タワー前の交差点、再開発が進んでビル化した鍾路]
とはいえ今も鍾路3街駅付近の南側には昔ながらの路地があり、古きも新しきも魅力ある場所が鍾路という街。ディープな魅力と現代的なスタイリッシュさが共存しています。この記事ではその鍾路の観光に役立つ情報をお伝えします。
鍾路(チョンノ)ってどこのこと!?
鍾路(チョンノ、종로)といえば大通りの名前。本来どこからどこを指すのでしょうか?
それはソウルを何度も訪れたことのある方ならお馴染み、李舜臣銅像の前にあたる世宗大路交差点がスタート地点。そこから東へと延び、通称・東大門(興仁之門)を抜けて、地下鉄1号線の新設洞駅までの区間です。その距離はおよそ、4.2キロメートルにも及びます。
[鍾路の地図]
実はこの道、鍾路という名前がついていますが、実は国道6号線のことで、全長約200キロの道路なのです。もし鍾路の大通りにいるとき、「西は仁川、東は江陵」へと続いている道だということは、ぜひとも覚えておいてください。
※詳しく知りたい方は「江原道への「路(みち)」に思いを馳せて~ソウルから江原道へのアクセス考」をご覧ください。
現地の韓国人たちが集う、鍾閣駅周辺(鍾路1~2街)
鍾路(チョンノ、종로)といえば、たいていは地下鉄1号線の鐘閣(チョンガッ、종각)駅周辺のことを指しますこのあたりには企業のオフィスが多いこともあり、ビジネスマンたちが多い街である一方、歴史ある路地裏の飲食街のほか、繁華街が発達しています。
そして鍾路沿いの鍾路交差点の北と南でも雰囲気がまた異なります。
●チェーン店などあらゆる飲食店が集まる
まずは南側から。鍾路タワーの向かい側で、鍾路交差点にある普信閣(보신각、ポシンガッ)という楼閣。大きな鐘があり、朝鮮時代に門の開閉時刻を知らせました。この鐘は重要文化財にあたる宝物に指定され、実物はソウルにある国立中央博物館で展示されています。
[普信閣]
この普信閣の裏手が、貫鉄洞(クァンチョルドン、관철동)という街。ここは雑居ビルがひしめいている繁華街。オフィスとして使われているビルもありますが、飲食店がとにかく多い街。韓国のチェーン店だけなく、日本でおなじみのお店も進出しています。
[貫鉄洞の様子]
食べたいものが浮かんで、ここを訪れれば何でもある、いう印象。昼間はビジネスマンたちが訪れる手ごろな(安い)ランチも。プデチゲやタッカンマリ、プルコギなどのお馴染みの料理のチェーン店が集結しています。
夕方になると現地の若いサラリーマンで賑わい、騒がしいくらい人が集まってきます。明洞まで徒歩5分の場所ながら、観光客はほとんどいない韓国人たちの街です。都会ながらもソウルらしいソウルを愉しみたい方はぜひともここへ。
●ビルのなかで路地裏を再現~ピマッコル&清進商店街
北側はピマッコルという路地があり、昔ながらの飲食街。ここは清進洞(チョンジンドン、청진동)という街。
ここ10年の間で再開発が進み、かつてあった飲食店街は立ち退きを余儀なくされました。当時のお店がビルのなかで営業していたり、『食客』という漫画をもとにした「食客村」には地方のお店もあります。
[清進商店街]
建物の横は地面がガラス張りになっており、朝鮮時代の建物跡を見ることができ、昔とのつながりで今の建物があることがわかります。「食客村」の地下は鍾閣駅直結の商業施設&飲食街。昔の路地の面影は全く感じさせることのない、スタイリッシュな飲食街です。
●「和信味の通り」は新しい屋台街に
今度は鍾路タワーの裏側。仁寺洞(インサドン、인사동)方面へ向かうと、長屋のように連なった屋台街があります。ここは2016年までテント屋台があった場所です。テントのなかで屋台のように様々な店が並んでいて、なかなか風情ある場所でした。
[長屋屋台街]
かつて鍾路エリアにあった屋台を集めて、テント屋台を形成したのだそうですが、それも立ち退きに。今は新たな形で生まれ変わり、「和信味の通り」という名前になりました。簡素な作りで気張らず入れる屋台街。
[和信食べ物村(화신 먹거리촌)」
昔のほうがよかったのに、という声も聞こえてきますが、ここも環境改善の結果、このようになったのです。
益善洞の人気で鍾路3街の屋台街も隆盛。ディープなソウルを味わえる楽園洞
鍾路通りののちょうど真ん中あたりの地下には鍾路3街駅があります。このあたりは仁寺洞(インサドン)の入口でもあり、3.1独立運動の発祥の地でもあるタプコル公園や楽園楽器商店街があります。
[楽園楽器商街のビル]
1階部分が道路になっている楽園楽器商街の建物の中に入ってみると、ピアノやギターなどの楽器店が集まっており、音楽を演奏する人なら、立ち寄っておいても損はない場所。そのあたりが楽園洞です。
●おじいさんたちのたまり場、楽園洞
楽園洞付近、タプコル公園のあたりは、昼間にはおじいさんたちが集う場になっており、夜になると同性愛のカップルがたむろする。またその東側はモーテル街。という、都会のど真ん中で、カオスというのにふさわしい場所。
昼間はおじいさんたちが囲碁をしていたり、フリーマーケットが営業していたりしますが、夜になると屋台が出たりもします。そんな楽園洞付近にはディープで、チープな飲食店が集まっています。
[鍾路・楽園洞の飲食店街]
10,000ウォン(約1,000円)程度を握って行けば、酔っておなかがいっぱいになるようなお店ばかり。いわゆるスープごはん類なら日本円で200円~300円くらい。焼肉も600円~800円ウォンほど。この安さはソウル屈指です。
●鍾路3街の屋台街
伝統家屋の韓屋が立ち並び、近年その韓屋がリニューアルされ、カフェやレストランへと生まれ変わり、若い世代にも人気が出てきた益善洞(イクソンドン、익선동)。
その益善洞人気もあってか、鍾路3街の屋台街にも若い人たちが増えており、仕事帰りに立ち寄って一杯やる人もいます。冬にはテント屋台になりますが、春から秋にかけては心地よい風にあたりながら外飲みが楽しめます。
屋台料理は15,000ウォン(約1,500円)前後なので、あまり安くはないのですが、気持ちよくお酒を飲むことができます。ソウルを訪れたら、ここを訪れてみたいという人は多いでしょう。
[益善洞の入口あたりの人気店「味カルメギサル」]
夕方になると焼肉店が香ばしい煙が漂ってくる益善洞の入口。その煙につられてお店で一杯やりたくなることでしょう。扉もあいており、昔ながらのオープンスタイルで焼肉を焼きます。
日本ではあまり馴染みのない「カルメギサル」という豚の横隔膜の焼肉を味わえるのがよいところです。
●もうひとつのピマッコル~世運商店街まで
そして鍾路エリアの面影を残すのは鍾路3街駅の南側のエリア。このあたりも「ピマッコル」と呼ばれる場所でもあります。特に鍾路3街駅~世運商街までのあたりの路地裏にも飲食店街があります。
お店が密集した薄汚い路地という印象を抱かざるを得ないのですが、このようなところで長年営業しているお店が美味しく、しかもリーズナブル。
生ガキと茹でた豚肉を味わえる「クルポッサム(굴보쌈)」という料理のお店が集まっていたり、「タットリタン(닭도리탕)」が有名なお店があったりと、1人あたり1,000円ほどで味わえる飲食店があったりします。
横丁にそそられる方、旧来の韓国が好きな方には、ぜひおすすめしたいソウルの飲食街です。
鍾路(チョンノ)の魅力は、歴史と風情にあり
鍾路の魅力は、朝鮮時代から続く歴史が現在へとつながり、その風情が今も息づいていること。思い切って再開発を進めたことにより、その風情が失われてしまったと思えるところもあります。
ビルの間で路地を再現しようとしたことには、歴史の連続性を断ち切らないようにしたともいえますが、一方で「古き良き鍾路」が失われることにも批判はあったようです。
ただ21世紀に入って20年弱となった今、現代的な鍾路とレトロな鍾路が共存し、その両方を感じられる環境があるということ。ぜひ鍾路を歩きながら、飲み食いしながら、その様子を感じていただければと思います。
※さらに足を延ばしたい方は、鍾路の隣のエリア、光化門(クァンファムン、광화문)もおすすめです。しっかり歩いていきましょう。
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吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。ライター、他。1年8ヵ月のソウル滞在経験のほか、韓国100市郡以上・江原道全18市郡を踏破するなど、自分の目で見聞きした話を中心に韓国関連情報を伝えている。2021年1月にパブリブより初の書籍『ソウル25区=東京23区』を出版。2022年に韓国語能力試験(TOPIK)6級、2級ファイナンシャル・プランニング技能士取得。 ※韓国に関する記事制作やその他のご依頼もご相談ください。お問い合わせ 筆者プロフィール