平昌の素朴なグルメ、そば料理~韓国を代表する短編小説『そばの花咲くころ』の舞台へ
 2017/09/26 吉村剛史(トム・ハングル)

平昌オリンピックまで、約4か月に迫ってきました。江原道・平昌(ピョンチャン)は、国内でも有名なそばの産地としても知られています。この記事では、小説の舞台としても有名な、平昌郡蓬坪(ポンピョン)面と、韓国のそば料理についてお伝えしていきます。

●韓国で「そば畑」といえばココ!
韓国の街を歩いていると、時々そば料理店が目にとまることがあります。お店の看板や店内の写真に映し出されているのは、そば畑の風景。淡い緑の葉のなかに、ぽつぽつと白い花が広がっています。


[ソウル・老舗そば店の看板]

おそらくその写真を見ると、韓国の方は江原道を思い浮かべることでしょう。より地域を絞るならば、平昌・蓬坪(ポンピョン)が頭に浮かぶのではないか、と思います。

ソバは韓国語では「메밀(メミル)」といいますが、実際「蓬坪メミル(봉평메밀)」、「蓬坪マッククス(봉평막국수)」という名のお店もあるほどで、韓国のソバの産地といえばココなのです。

ちなみに韓国の方は「ソバ」という言葉を知っていて、「そば」のことを「メミル・ソバ(메밀소바)」と呼ぶ人もいます(日本でいう「チゲ鍋」のようです)。


[ソウル・日本式立ち食いそば]

近年の日本食ブームのなかで、日本式立ち食いそば店まで見かけるほどですが、ぜひ江原道に出かけて、美味しい空気を吸いながら、本場の韓国そば料理を味わっていただきたいのです。

●初夏に訪れたらジャガイモ畑だった!
韓国人なら誰でも知っている有名な近代短編小説のひとつに、『そばの花咲くころ』があります。これは蓬坪生まれの作家・李孝石(イ・ヒョソク)が1936年に発表した作品。切なさを感じさせる一夜の回想が、そばの花が咲く情景とともに描写されています。

私のような地方旅行マニアとしては、そば畑の写真を見たとき、「ぜひとも蓬坪(ポンピョン)に訪れてみたい」と思ったのです。恥ずかしながら、時期を考えることもなく思いつきで、ある年の初夏に出かけてみました。

東ソウルバスターミナルから平昌経由、江陵行きの高速バスで約1時間50分。長坪IC(現・平昌IC)のすぐそばには、長坪(チャンピョン)バスターミナルがあります。

蓬坪(ポンピョン)面へは、長坪ターミナルから約6キロ。そこでバスに乗り換え、約20分で到着します。※平昌へのアクセス方法


[平昌郡・長坪ターミナル]

蓬坪面に到着し、あたり一面の畑を見渡すと、緑の葉にぽつんぽつんと花が咲いているだけでした。「しまった、何も考えずに来てしまった!」


[ぽつりぽつりと白い花が咲く畑]

畑のそばにある観光案内所に立ち寄り、「畑に咲いているのは、なんの花ですか?」と尋ねてみると、「ジャガイモの花ですよ」と。そこからさらに奥のほうまで歩いていくと、小さく可憐な花は満開を迎えていました。


[ジャガイモの花]

しかし「そば畑はどこに?」。そう思った私は、タクシーの運転士さんに訪ねてみることに。するとこのあたりは、そばとジャガイモの二毛作なのだと教えてくれました。

あとで調べてみたところ、6月中旬~下旬にジャガイモの収穫を終えると、その場所にそばが植えられ、9月には再び花が咲くのだというのです。参考:江原道のジャガイモ料理

●短編小説『そばの花咲く頃』の舞台
やはりソバの花の風景を見ずにはいられない、と思った私は、その年の秋、私は再び蓬坪(ポンピョン)を訪れてみることにしたのです。毎年9月上旬には蓬坪生まれの作家、李孝石の名を冠した「平昌孝石文化祭り」が開かれています。


[平昌孝石文化祭りの様子]

お祭りの頃になると、あたり一面には白く小さなソバの花が咲き、木道を散策したり、お花畑で写真を撮る人でにぎわいます。もちろん会場はそば畑の一部ですが、短編小説のなかの情景は、きっとこのような風景がだったのでしょう。

さらに10~15分ほど奥まで歩いていくと、李孝石の生家があります。そしてこの蓬坪周辺はリゾート地でもあります。民宿やペンションなどの個人経営の宿泊施設がほとんどですが、ここで一泊していくのもよいでしょう。


[そばの花]

ソバの花は、近づかなければよくわかりませんので、接写で写真を撮ってみました。ジャガイモの花も小さいのですが、それよりももっと小さく、カスミソウのようです(カスミソウのほうがもっと小さいかも…)。

●江原道のそば料理をおさらい
平昌・蓬坪では、そばが特産品。もちろん蓬坪面だけではなく、江原道の山間部全域の名物ともいえるでしょう。そこで、江原道のそば料理を見ていくことにします。実際のところ、韓国のソバの生産量NO.1は江原道ではなく済州島だそうです。

●マッククス
マッククスはわりと日本のそばに近い食べ方。冷たいスープのなかに麺が入っているムルマッククス(물막국수)や、辛いヤンニョムを入れて混ぜたピビンマッククス(비빔막국수)があります。

押し出し機によって麺が押し出される点は、日本のそばとは少々異なるのです。

●メミルジョン(메밀전)
江原道の市場に出かけると、必ずといってもいいほど見かけるのがメミルジョン。わかりやすく言うなら「そばチヂミ」です。つなぎを含んだそばの生地に、季節によってミツバのような野菜や、キムチなどを入れたりして焼きます。

こちらはマッコリと一緒に召し上がってもよいでしょう。

●メミルチョンビョン(메밀전병)
メミルジョンとともに、市場で売られているのが、メミルチョンビョン。「チョンビョン」は漢字で表すと「煎餅」なのですが、春雨やキムチなどの具材がそばの生地にくるまれています。中は味付けされているので、そのまま食べても十分美味しくいただけます。

これらの3つの食べ物は、江原道のそば料理として各地で提供されています。江原道に出かけたら、ぜひ召し上がってみてください。

●そばチャンポン(메밀짬뽕)
そしてもう一つ。江原道のグルメとは言い難いのですが、韓国のそば料理店には「メミルチャンポン(そばチャンポン)」なる料理があったりもします。

チンゲンサイのほか、タコなどの海産物が入っているのです。下の写真はソウルの老舗店・美進(ミジン)で食べたものですが、調べてみると原州にはそばチャンポンの専門店があるのだとか。

いずれにせよ、「チャンポン」や、辛いヤンニョムを混ぜる「ビビンマッククス」のような食べ方からすると、日本の手打ち蕎麦を食べるときのような「蕎麦の香りを楽しむ」という概念は、ほとんどないと言ってもよいのかもしれません。

そばチャンポンは、江原道の郷土料理とは言い難く、日本語のブログや記事では取り上げられていないため、韓国のなかでもかなり珍しいものといえます。ただ、そばチャンポンを見ると、日本と韓国の「そば」に対する認識が異なるように思うのです。

●江原道の風景を楽しみながら、そば料理やジャガイモ料理を!
韓国で「そば」の産地としてイメージされやすい「蓬坪(ポンピョン)」。前述のように、そば料理は江原道のほかの地域でも味わうことができます。これはジャガイモ料理についても同様です。

グルメも旅のひとつの要素。地方で美味しいものを追求する旅もよいのですが、旅の楽しみは「味」だけではありません。その土地土地の風景はもちろん、美味しい空気を胸いっぱいにすい、畑や農場の様子もうかがいつつ、料理を召し上がっていただけたらと思うのです。

※この記事は韓国・江原道公式ブログに掲載されたものです。(2017/10)

追記:平昌のグルメは蕎麦のほか、スケトウダラの干し物・ファンテを使った料理や、ブランド韓牛が有名。参考:平昌の名物グルメ・韓牛~最高級の焼肉をリーズナブルに



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トム・ハングル(吉村剛史)
吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。韓国旅行・地方旅の総合発信者。2012年に韓国文化誌『スッカラ』でデビュー、その後韓国旅行、語学Webの編集・ライターを経て、講座、トークイベントでの発信も。これまで韓国100市郡以上を踏破。平昌五輪開催の江原道公式ブログにも寄稿中。プロフィールお問い合わせ


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