韓国・順天(スンチョン)の旅~順天湾、ムツゴロウ鍋
 2010/12/05 改:2016/08/02 吉村剛史(トム・ハングル)

韓国の地方の食の食べ歩きをテーマにしている
鄭銀淑さんの著書、『韓国の美味しい町』(2006年・光文社新書)の
あとがきにはこんなことが書かれています。

読者の方々が、限られた時間のなかで食べ歩きをするには
釜山3泊4日や全州2泊3日が現実的だが、そうした「点」の旅ではなく
慶尚南道の釜山と全羅南道の木浦間を南海沿いに移動する「線」の旅を
おすすめしたい。(p.201の一部を要約)

この一節に触発され、2010年7月に光州―釜山間を実際に食べ歩いてみました。
光州の韓定食、麗水の李舜臣の話はすでに書いていますが、
その次に訪れたのが順天でした。

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午前8時30分。
「麗水」という字の通り美しく静かな港町をあとにし、
順天行きのムグンファ号に乗り込みます。

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若干、雲が多いものの天候は晴れ。
水分を含んだような夏のどっしりとした雲の隙間から
差し込む日の光が海面を照らします。

車窓から見えるそんな夏の海との別れを惜しみ、
列車は順天に進んでいきます。わずか40分ほどの道のりです。

前に座っていたのは中国人の若い夫婦と思われる男女2人。
大きなスーツケースを持っていながらも
長旅をしているバックパッカーのような旅行者。

若い女子学生が2人で旅行する姿もよく見られます。
私のようなひとり旅は少数派なのでしょうか。

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当初の予定では順天で朝食をとり、すぐに河東に向かう予定でしたが
順天に到着してみると、釜山方面行きの乗り換え時間はわずか数分。

全羅南道内の慶全線は1日にわずか数本しか運行されておらず、
次の列車の出発は午後になってしまいます。
電車に乗るのはやめ、順天を観光することにしました。

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順天について何も知らないので、
駅前の観光案内所でパンフレットをもらっていくと
ここには意外にも多くの観光地があるのです。

朝鮮時代の家などの史跡が見られる楽安民族村や
韓国3大寺院の1つとされる松廣寺、
いくつかのドラマのロケ地にもなっている場所があるとのこと!

しかし、午後の列車には乗らなければならず、
30分程度で行けるところを選びました。
そこで向かったのは順天湾。

季節は7月。言うまでもなく、暑さ厳しいこの季節。
観光案内所で、どのバス停から出ているのかを聞くと
ロータリーにあるコンビニの前から発車しているというのです。

汗を拭き拭き駅前のロータリーから発車するバスを待っていました。
夏休み中の旅行中でしょうか?
女子高生くらいの2人組も一緒にバスを待っています。

あとからバス停に来た男子大学生のグールプが、
その2人組に、順天湾行きのバスは行ってしまったのか、
と尋ねるのを聞いていると、ついさっき行ってしまったというのです。

さらに話を聞いていると、
その2人組はなんと180分間隔のバスを待っているのだとか…。
じっとしてても汗だらだらなのに、あまりにも気が遠くなりそうです。

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韓国の路線バスは時刻表がないところが不便。
地元に住む人はある程度の出発時間はわかっているのでしょうが、
この天候の中、いつ来るかわからないバスを待つのは一苦労です。

順天湾行きのバスは67番。
30分間隔で発車し、所要時間も約30分ほど。

この日の最終目的地は慶尚南道・晋州。
14時台の電車に乗るため、4時間程度で駅に戻ってこなければなりません。
そんなわけであまりゆっくりしている暇もなく、
少し気を焦らせながら目的地・順天湾に向かいます。

順天駅前のバス停。
真夏の日差しのなかようやく来た路線バスに乗り込み
順天湾に向かいます。

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しばらく進んでいくと、
夏の青々とした緑が生い茂るのどかな田舎の風景に変わります。
昔ながらの平屋建ての古民家が道の両側に点々とし、
そしてバス停は、長時間待つことを想定した屋根つきのベンチ。

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バスを降りたら真夏の暑さが待っているのですが、
都会とは違う、そんな風景が心地よく感じられます。

30分ほどバスに乗ったところで、順天湾のバス停に到着です。
降りた瞬間、地平線が見えるかどうかというほどの湿地に、
イネ科の植物である美しい葦畑が一面に広がります。

その壮大な景色はまるで水田のようにも見え、
夏の暑さや旅の疲れが一気に吹き飛んでしまうかのような
壮大で、本当に気持ちの良い風景なのです。

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この順天湾は、世界5大沿岸湿地の1つでもあり、
生い茂る葦だけでなく天然記念物にも指定される渡り鳥や、
干潟特有の多様な生物も棲んでいるのだとか。

順天湾自然生態公園のゲートをくぐると、
展示物のある生態館、そしてその上には展望台があります。
すこし高いところから見渡せる風景もまたきれいなのです。

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しかし、この公園になっているのは単なる入口の部分に過ぎず、
奥に歩いていけば、順天湾の絶景が見られるのだとか。
実はそれを知ったのは日本に帰国してから…。

たしかに湾なのにも関わらず、海のような部分は見えないし…。
パンフレットに写真のような風景も一切見られず…
たぶん奥に進めば、もっと良い場所があるのだろうと思ってはいました。

時間がたっぷりあるのなら、そしてこんなに暑くないのなら
もっと奥に進んで行こうとも思っていたのですが、
そんな気分にもなれず…

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しかも、駅にはコインロッカーがなかったため、
この暑い中、重たい荷物をもって歩くのが大変で、
これにもまた順天湾の散策を阻まれてしまったのです…。

あとで駅に戻ったときにわかったのですが、
順天駅には顧客サービスセンターというホールが用意されていて、
観光客はそこにスーツケース等の荷物を置いて出て行くようです。

とにかく、いずれにしてもテーマは「食」
次の都市に向かわなければならず、時間も限られています。
とりあえず、順天湾の名物を食べたい!と思うのですが、
順天は単なる乗り換え駅として予定していたので、調べてきたわけでもありません。

何が名物なのだろう?と考えていたところ、
ふと目にとまったのが、公園内の看板でした。
食堂のリストを見ると目にとまった見慣れない単語があったのです。

その食べ物とは一体!?

順天湾の名物はなんだろう?
と思い、公園内にある食堂の案内板を見てみると…。
「짱뚱어(チャントゥンオ)」と書かれたお店がいっぱい。

「짱뚱어」って何なんだろう・・・?
と思い、手持ちの電子辞書で調べてみると、なんと「ムツゴロウ」
日本でも食べたことがないのに、もちろん知っているはずもない単語です。

ムツゴロウは干潟に棲んでおり、
日本では有明海や八代海にしか生息していないという珍しい魚。
「これだ!」と思い、さっそく食べに行ってみることに。

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やはり自然生態公園付近には
「짱뚱어」と表示された垂れ幕がかかっている店が数多くみられます。
時間もあまりなかったので、ゲートを出てすぐのお店に入ってみました。

そこで「짱뚱어탕(チャントゥンオタン)」を注文。
「ムツゴロウ鍋」です。値段は10000ウォン。

最初につき出しで出てきたおかずは4種類。

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ウズラの卵?房についているこの豆は何だろう…?
茶色くゼリー状になっているのは…?
どんぐりのでんぷんを固めた…トトリムクか!

ここまで、光州、麗水と食べ歩いてきた私。
一度に出される10、20数種ものおかずに慣れてきたせいか、
「このくらいの量がふつうなのかな?」と物足りなく思っていました。

しかし、順天も全羅南道。
しばらくするとあっという間にたくさんのおかずで
テーブルが埋め尽くされました。

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やはり見慣れない食材も数多く並んでいます。
その土地でとれた素材を豊富に使うのが全羅道なのでしょうか。

さて、たくさんのおかずをつまみながら待っていると、
メイン料理の「チャントゥンオタン」がついに出てきました。

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ぐつぐつと煮立ち、湯気いっぱいのなかでさっそく食べてみます。
ムツゴロウは青魚とは異なり、油気がなく淡白な味。
ちょっとパサッとした、さっぱりとした食感です。

これぞ順天湾の逸品!
ここでしか食べられない名物料理を味わい、
たくさんの素材を使ったおかずを食べ、おなかいっぱいに。

「やっぱり全羅道の料理はすごい!」と改めて驚かされ、
幸せな気分で順天駅に戻ります。

この日、目指すのは慶尚南道、ウナギが名物の晋州。
1日に数本しかない慶全線のムグンファ号に乗り、順天を発ちます。
全羅南道ともついにここでお別れです。

(完)

<おまけ・順天の旅行情報>

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順天駅からは順天の観光地をめぐるシティーツアーバスが運行されています。
9時50分順天駅前出発を出発し、17時30分の到着です。
コースは曜日によって変わるそうです。

料金は7000ウォン~9000ウォン。
わずか1000円以下。とても安いですよね~。
そして予約が必要です。順天市のホームページから予約できるようです。

1人くらいだったら、席が空いてて交渉すれば
乗り込めてしまうような気もしますね。わからないですけど。
そういうところが韓国らしさでもあるのだから。

次回行ったら利用してみたいな、と思っています。
やっぱり観光地をあちこち巡るのには移動が大変なので…。



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トム・ハングル(吉村剛史)
吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。31歳。2012年に韓国文化誌『スッカラ』でデビュー、その後韓国旅行、語学Webの編集・ライターを経て、文化センター講座、トークイベントでの発信も。1年8ヵ月のソウル滞在経験のほか、韓国100市郡以上を踏破するなど、地方にも関心が高い。平昌五輪開催の江原道公式ブログにも寄稿中。プロフィールお問い合わせ


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