水のないムルフェ(水刺身)
 吉村剛史(トム・ハングル)
 2013/02/10 改:2016/08/04 

地方を旅しているなかで出会う、韓国各地の郷土料理。
食べたついでに、その歴史や由来まで紐解いてみると、
その地域の暮らしぶりが見えてくるように思います。

さて、「ムルフェ(물회)」という料理をご存知でしょうか。
直訳するとムル(물)=水、フェ(회)=刺身、つまり「水刺身」となります。
簡単にいうと、刺身に水をかけて食べるという料理です。

韓国の東海岸を中心に、このムルフェを名物料理とする地域が多く、
製鉄会社のPOSCOで有名な、浦項(ポハン)も有名な場所の一つです。

もともとは漁師たちが船仕事をしながら、
忙しい仕事の合間に急いで食事を済ませられるように、
と工夫されてできた料理だといわれています。(これについても諸説あり)

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<釜山駅>

先月、釜山に行ってきたのですが、
韓国のガイドブックを見て、釜山・中央洞にある有名なムルフェ専門店、
「東海ムルフェ(동해물회)」という店に入りました。

ムルフェ(9000ウォン)を注文。
器には白身魚、キュウリ、梨、が入っており
その上にネギ、海苔、コチュジャン、ニンニクがのせられています

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自分で水をそそぐものなのか?と思い、
そばに置かれたやかんを覗き込むと中身はお茶。水は出てきません。
食べ方を聞くと砂糖を入れて酢をたらして混ぜて食べるのだといいます。

「えっ!?水は??」

それにしてもサンチュやえごまの葉、青唐辛子が一緒に出てくるということは
最初から水を入れることを前提にしていない、ということですよね。

混ぜて食べると梨の甘み、キュウリのシャキシャキ感とともに
ごま油の香ばしい風味が鼻から抜けます。そして歯ごたえのある刺身。
それに加えて、ニンニクの辛さとコチュジャンの辛さが刺激的な味を生み出します。

結局、最後まで水は出てきません。

お店を出るときにお店の方に尋ねてみると、
「水を入れないほうがおいしいでしょ!入れてもいいんだけどね。」
と、なんと刺身のようにさっぱりとした答えが。

2004年のプサンナビの記事をみたところ
このお店では、最初に水を入れないで出てくるとの記述があります。
後から入れる、とも書いてあるのですが、最近は入れないのかもしれません。
(参考: http://www.pusannavi.com/food/1190/

しかし「水のないムルフェ」というのはこのお店だけではないようです。

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<浦項・竹島市場>

実は2011年の夏、浦項の竹島(チュクド)市場に行ったときに、
ムルフェなるものを食べてみたくて注文したのですが、
食べ方がよくわからず困っていると、お店の方が教えてくれ混ぜてくれました。

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<混ぜる前>

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<混ぜた後>

けれどもお店の方は水を入れようとせず・・・。
しっかり混ぜてくれたあげくに水を入れなかったというのは
「水を入れない食べ方もある」ということなのでしょう。

これでも疑わしい、という方のために
韓国語で「물이 없는 물회(水がないムルフェ)」と検索すると
韓国語のブログがいくつか出てきます。

<韓国のブログ>

http://v.daum.net/link/32431228
・水は入れず、氷が後から溶けて水ができる

http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=checo&logNo=40132260374&viewDate=&currentPage=1&listtype=0
・写真をみると、氷だけが入っているよう

結論として、「水がないムルフェ」は実在するということですね。
それにしても、水を入れなくても「ムルフェ」と呼ぶのは
なんとも不思議な話ではありませんか。

キムチも時代によって、トウガラシが入ったりと変わってきたように、
食べ物は人々の嗜好や生活習慣に合わせて変化いくものなのでしょう。
まさに「食べ物は生き物」です。




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