じわーっと白くなる烏骨鶏の焼肉に舌鼓~江原道・楊口(ヤング)
吉村剛史(トム・ハングル)
2015/01/04 改:2017/05/19
東ソウルバスターミナルから市外バスに乗り、ソウルから北東に離れた楊口(ヤング)を目指します。洪川(ホンチョン)を経由して楊口(ヤング)に向かいます。季節は11月上旬。紅葉のピークよりも少しあと。木々は少しずつ色褪せはじめ、山は冬の訪れを待っているかのような時期でした。
途中、くねくねした山の中を走り、バスは38度線を超えて、北に向かいます。北朝鮮との軍事境界線にも近い町、楊口(ヤング)郡。人口は約2万2千人の小さなまち。ソウルから約2時間半かけて到着。バスターミナルを降りると、軍人たちがたくさんいるのです。楊口は、韓国政府が定めている韓国の領土のちょうど中央、おへその位置にあたります。
私がここを訪れたワケはほかにもあるのですが、今回、紹介するのは江原道のヘルシーな食べもの。しかし、ヘルシーとは言えども、せっかく旅で訪れるのですから、しっかりとしたものが食べたいと思うもの。そんな願いにもかなえられるのがオゴルゲグイ、烏骨鶏(ウコッケイ)の焼肉です。
楊口の名物!烏骨鶏の焼肉、オゴルゲグイ
楊口郡を旅して、時刻は夕方5時過ぎ。だんだんと町が暗くなっていきます。オゴルゲグイ(烏骨鶏の焼肉)の店は、楊口(ヤング)に2軒あるといい、両者ともバスターミナル周辺に店を構えています。私が向かったのは「長寿(チャンス)オゴルゲ」という店でした。
やはりここは韓国。「ひとりで焼肉を食べに行っても大丈夫か?」と旅慣れていても躊躇います。外からメニューをのぞきこむと、1羽4万ウォン(約4,000円)。ひとりの食事としては少々奮発する金額となりますが、ここまで来たら、もう味わってみるしかありません。個室の席に案内され、さっそく注文しました。
烏骨鶏(ウコッケイ)は、羽が全身黒もしくは白で覆われている鶏なのですが、骨や皮膚、肉まですべて黒いのが特徴。中国でも王や貴族たちが食べていたという高級な食材で、滋養強壮によいといわれています。
韓国でも高級品。朝鮮時代には宮中の「保養食」として食されており、もちろん現代でも高価なもの。ソウルの参鶏湯専門店で、烏骨鶏の参鶏湯(オゴルゲサムゲタン、오골계삼계탕)を召し上がったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ごま油とニンニクの風味、焼くとじわーっと白くなる!
注文すると、さっそく出てきました。鳥一羽がお皿に盛られて出てきます。肉はごま油ベースの薬味で、味がつけられています。詳しいことは、「秘密」とおっしゃっていましたが、ニンニクの風味が漂ってきます。これを炭火で焼いて食べるのです。お店の方は「あまり焼きすぎないように」と教えてくれました。
火のうえで焼くと、あら不思議。なんと「じわーっ」っと、肉の表面が白くなるのです。そうしたら、ゆっくりと肉をひっくり返します。これを塩や味噌(テンジャン)もしくは、玉ねぎとわさびが入った醤油につけていただくのです。
口に入れて噛んでみると、鶏肉よりも脂分が少なめで、程よくハリのある上品な味。なんだか一般の焼肉のようにワイワイ食べるのには向きません。炭火でじっくり焼き上げて、落ち着いてひとつひとつを味わいたいという印象。味も身もしっかりしているだけに、一気にまとめて焼くのがもったいなく感じて、ゆっくり味わいます。
あとで聞いた話では、烏骨鶏は郡内で育てて、そのまま運んでくるのだといいます。ソウルなど他の地域では冷凍した肉を輸送し、解凍してから調理するのですが、冷凍すると味が格段に落ちてしまう、「ここでは、新鮮なものを使っている」と、自信をもっておっしゃっていました。
お酒は「清河(チョンハ)」、〆には鍋が登場。
最初はお酒は飲まずにゆっくり味わおうと思ったのですが、やはりお酒が飲みたくなりました。焼酎ではなく、清酒「清河(チョンハ)」を注文。ビールやマッコリではちょっとお腹が重いし、焼酎は苦味があるので、あえてこのお酒を選びました。清河(チョンハ)はそれほど、主流のお酒とはいえないですが、意外とすっきりとして飲みやすいのです。
焼肉を食べ終わると、最後にサービスで鍋が出てきます。これをオゴルゲタン(오골계탕)といいます。ジャガイモがごろりと入っていて、見た目はカムジャタンのよう。こってりとしたカムジャタンとは異なり、脂分が少ないので非常にあっさりしています。ラー油のような唐辛子油(コチュギルム)が浮いていて、薄味でピリリと辛いのです。材料をちらっと尋ねてみたのですが、やはり秘密だそうです。
店主のアジュンマ(おばさん)と話す
お会計をすませて、いろいろ話を聞いてみようとしたところ、お店の店主のアジュンマが出てきて「こっち来なさい」と別の部屋に案内してくれました。「コーヒー一杯飲んでいく?」と丁寧に声をかけてくださったのです。
私が「日本から来て、江原道を旅してまわっている」と話すと、いろいろ話を聞かせてくださったのです。「大韓航空の機内誌」に掲載されたことがあるとも教えてくれて、冊子も見せてくれました。
個人的なことはあまり書くのはよくないので、ここでは省略したいと思います。お店は家族経営で20年になるのだそう。日本人のお客さんも時々お店にやってくるといいます。ただ言葉が通じないこともあるので、話せてよかったと、いいながら。ひとつ書くとすれば、「お店に来てくれたお客さんに良いものを出したい、という気持ちでずっとやってきた。」と、お話していました。
話した記念に、といって、一緒に写真を撮っていただきました。掲載許可まではとらなかったので、私のなかで記念として、どこかでお話しするときにそんな様子もお見せ出来ればと思っています。「今度は友達連れてきなさいね」とおっしゃっていたので、誰かと一緒に行きたいです。そうして私はお店を出ました。こういう思い出は韓国の地方ならでは。言葉の壁もありますが、カタコトでも楽しい旅はできると思います。
★店舗情報
長寿オゴルゲ
住所:江原道楊口郡楊口邑上里519‐3
★地図
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吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。ライター、他。1年8ヵ月のソウル滞在経験のほか、韓国100市郡以上・江原道全18市郡を踏破するなど、自分の目で見聞きした話を中心に韓国関連情報を伝えている。2021年1月にパブリブより初の書籍『ソウル25区=東京23区』を出版。2022年に韓国語能力試験(TOPIK)6級、2級ファイナンシャル・プランニング技能士取得。 ※韓国に関する記事制作やその他のご依頼もご相談ください。お問い合わせ 筆者プロフィール