脇道にそれずとも三千浦(サムチョンポ)へ~泗川「象の道」を歩く

韓国語の慣用句のなかに、「三千浦へそれる(삼천포로 빠지다、サムチョンポロパジダ)」という言葉があります。これは「(話が)脇道にそれる、脱線する、物事が予想外の方向へ進む」という意味で使われます。

この「三千浦(삼천포、サムチョンポ)」という場所は、韓国・南海岸にある漁港のこと。


[三千浦の漁港]

このフレーズの由来には諸説あるのですが、道を間違えて偶然ここにやってきた、電車を乗り間違えてたどり着いた、というような話ばかり。

脇道にそれて、たどり着いてしまう場所が三千浦(サムチョンポ)ならば、「目的をもって訪れるほどの魅力はないのだろうか?」と考えてしまいます。そこで、昨年(2016年3月)、三千浦港へ実際に出かけて、どんな場所なのか確かめてみることにしたのです。

三千浦へ、実際に行ってみた

三千浦は韓国の南東部、慶尚南道の泗川(사천、サチョン)市に位置します。南海岸は入り組んだリアス式海岸で、このエリアの海は、閑麗(ハルリョ)海上国立公園に指定されています。

三千浦(サムチョンポ)という地名は、高麗の首都・開城(ケソン)から、三千里(約1200キロメートル、※朝鮮半島では1里=約400m)離れた場所にあることに由来します。それは陸路ではなく、それは海路でのこと。西海岸、南海岸を通り、三千浦にまで出るのです。


[開城から三千浦へ、※橙線は海路はイメージとしてお考え下さい]

現在はソウル方面から海路で行くことはできません。釜山からのアクセスが便利です。沙上(ササン)駅前にある釜山西部バスターミナルから、市外バスに乗ること約2時間。三千浦バスターミナルに到着します。そこから市外バスで15分ほどで港へ。

慶尚道、とくに南海岸の市場は独特の活気があります。農協近くの中央市場には地元の買い物客が集まり、朝からとても賑やかな雰囲気。そこから歩いて近くの漁港を訪れると、朝霧がかかっていました。

●三千浦龍宮市場
港にある三千浦龍宮市場は、政府の事業により2013年、「龍宮」をテーマにした観光市場としてリニューアル。

市場の外観には龍宮をイメージしたキャラクターが描かれています。アンコウやコノシロ、ヌタウナギ、メバルなどの魚や、カメやウサギなども。思わず記念写真を撮りたくなるような、可愛い絵柄ばかりです。

市場ではタイやカレイ、クロソイなど、様々な魚が売られています。

アジュンマ(おばさん)に「買っていって」と呼びかけられるのですが、魚にもよりますが安いもので1キロ2万~3万ウォン(2,000円~3,000円)。市場の人たちは日本語でも魚の名前を知っていたりもします。

市場で購入した魚は、市場の前に並んでいる食堂で刺身をいただくことができます。グループで訪れるなら、市場で魚を購入してお店に入ってもよいでしょう。

●春の香りが漂う、メイタガレイのヨモギ汁(도다리쑥국)。
散策前に腹ごしらえ。ひとり旅だと魚を購入して食堂で食べると、割高になることがあります。そんなときは食堂へ。メニューによっては1人前を断られることもありますが、お店によっては食事が可能です。

季節は初春。南海岸の旬の魚、メイタガレイ、そしてヨモギが入ったスープ。海風を感じながら、春の香りが漂う汁をすすります。ゆっくり春を味わいたいものです。


[メイタガレイのヨモギ汁、26,000ウォン(約2600円、2人分)]

三千浦大橋から象岩まで続く「三千浦・象の道」

このときは2016年3月トークイベントのテーマ、「道」のために出かけました。「脇道にそれる」という意味の言葉をもとに、三千浦にスポットライトを当てたのですが、そこに「象の道」があったのです。


[象の道の案内図]

泗川市内には、文禄・慶長の役で功績を残した李舜臣将軍をテーマにした散歩コースが5つありますが、その5つ目にあたるのが、「象の道(코끼리길、コッキリギル)」。海岸沿いに続く11キロの道。この通り沿いは、前述の三千浦龍宮市場も含めて見どころ満載なのです。


[三千浦港と象の道(橙線)※線は目安]

この道は、戦乱中に基地として使われた「掘港」といった史跡や、李舜臣将軍の功績をたたえた銅像などがあり、歴史由緒を感じさせる道です。

端から端まで歩くと約2時間、実際は中心街ともいえる旧港まで戻る時間や、食事をしたりする時間も考えれば、3~4時間はかかるとみてよいでしょう。コースの一部だけを歩くもの良いと思います。

象の道のみどころ

ちなみにコースのスタート地点は三千浦大橋。この橋を渡ると、南海(ナメ)郡へとつながります。

春になると橋のまわりには菜の花が咲き、夜になるとライトアップされます。また、近くには落日の景色を望む名所もあるので、天候が良ければ必ず抑えておきたい場所です。


[三千浦大橋]

旧港には漁協(韓国では「水協」)のほか、市場から仕入れた魚や、三千浦の名物として知られる、カワハギの干物などを売る乾物店などが並んでいます。


[旧港の商店]

前述の三千浦龍宮市場を過ぎ、少し歩いていくと、海岸沿いには屋台街があり、夜になるとにぎわうのです。大勢で出かけて屋台でワイワイと騒ぎながら、美味しい海産物とともにお酒を飲みたいものです。


[夜になると活気あふれる屋台街に]

さらに進むと、史跡や李舜臣将軍の像があり、三千浦の港を望む魯山(ノサン)公園の小高い丘を越えていきます。夏の夜には若者たちでにぎわいそうなナイトクラブ、そして宿泊も可能なモーテル街があり、貨物やカーフェリーが出入する新港へ。

新港を過ぎたあたりから、象の道のクライマックスを迎えます。最初の三千浦大橋から歩くと、ここで1時間半が過ぎていることでしょう。緩やかなアップダウン、平地を繰り返しながら歩いていきます。


[南逸台海水浴場へ]

坂を上っていき、しばらくすると、南逸台(ナミルデ)海水浴場が見えてきます。南逸台は新羅末期の学者、崔致遠(チェ・ジウォン)が「南方で最も景色がよい場所」と評したため、「南逸台」と名づけられたといいます。

そして南逸台海水浴場のあたりから、「象の道」の由来となっている奇岩「象岩(코끼리바위)」を臨みます。象が水を飲んでいる、と形容される岩ですが、ここが「象の道」の終着点なのです。

この日は晴れ間を望む一方で、霧がかかったりと、海の気候の不安定さが表れていましたが、夕方には晴れ、三千浦に沈む美しい夕日を眺めることができました。

三千浦の夜。市場街はあっという間に暗闇に包まれます。夕方6時には多くが店じまいをし、明日の朝に備えるのです。三千浦までやってきたら、早く床につき、朝競りにも足を運びましょう。

三千浦港の朝競りは必見!

翌朝は朝4時ごろに起き、急ぎ足で水協裏の市場へ向かいます。到着したときはすでに朝5時。この時間になると競りも後半戦のようです。


[鮮魚の競りが行われている様子]

市場の人々が行き来するなか、邪魔にならないように競りを見ていました。競りが行われている様子は、呪文を唱えているのではないかと思うほど、その言葉は聞き取れないのです。下の3秒動画で競りの様子を感じていただければと思います。

[水揚げされたばかりの魚]

競りが終わる頃には、空が明るくなります。こうして三千浦港の一日がスタートするのです。

魅力いっぱいの三千浦、話のネタにも

三千浦(サムチョンポ)は、港を散策して夕日を眺め、市場で旬の魚に舌鼓を打ち、夜はお酒を飲んで騒ぎ、早朝には競りの見物に、というほど魅力がたくさん詰まった港。

地理的な面を考えると、「サムチョンポロ パジダ(삼천포로 빠지다)」という言葉通り、本来の旅程を外れなければ、訪れないような場所にありますが、ここを訪れる価値は十分にあると断言できます。

何はともあれ「三千浦に行ったことがある」という経験は、人生のどこかで韓国人と会話するときのネタとして役立つことは、間違いないでしょう。

※この記事は2016年3月のトークイベント『ハリアナコリア』、筆者のパートで配布した資料と、話した内容をもとに記事として書き起こしたものです。



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トム・ハングル
吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。韓国旅行・地方旅の総合発信者。2012年に韓国文化誌『スッカラ』でデビュー、その後韓国旅行、語学Webの編集・ライターを経て、講座、トークイベントでの発信も。これまで韓国100市郡以上を踏破。平昌五輪開催の江原道公式ブログにも寄稿中。プロフィールお問い合わせ


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