河東(ハドン)の旅~夏の雙溪寺(サンゲサ)とシジミスープ
 2011/10/10 改:2016/08/02 吉村剛史(トム・ハングル)

晋州のバスターミナルを出て、西へ進むこと1時間。
慶尚南道・河東(ハドン)バスターミナルへ到着した。

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自然豊かな山あいの町というのが第一印象であったが、
河東郡の南が海に面しているというのはそんな景色からは想像することができなかった。
西に進んでいき、川を渡ると全羅南道・光陽(クァンヤン)市。

実は昨年(2010年)の夏にも列車で通ったことはあった。
順天から晋州へと慶全線で向かう途中で下車する予定だったのだが、
時間がなくなってしまい、断念してしまった。

バスターミナルに着いたはいいが、どこに行くかもまったく決まっていない。
そもそも「シジミがとれることで有名」という情報以外は何の予備知識ももっていなかった。
仕方なくバスターミナルのそばにある公設市場をぶらぶらしてみることにした。

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活気に満ちた都会の市場は悪く言えばごちゃごちゃしており、
まるでカオスの様相を呈しているが、田舎の市場というにもふさわしい雰囲気のこの場所は、
道のど真ん中で商売をしている人もおらず、比較的ゆったりとしている。

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山菜や貝や果物などを売るおばあさんたちが店の前に品物を並べ、
仕事をしている光景は韓国のどこへいっても変わらない。

あたりを見回していると재첩국(ジェチョプクク)と書かれた店が多いことに気づく。
あまり見慣れない単語なので調べてみたが、日韓辞典には載っていない。
しかし何のことなのかすぐに想像はついた。シジミ汁のことである。

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けれどもまだ9時台。食事をするのにはあまりにも早い時間である。
バスターミナルには観光案内所がなく、パンフレットも置いていないようだった。
そこで何か情報を得られるのではないかと思い、タクシーで河東駅へ向かった。

タクシーの運転手に「駅にいって何をするのか」と尋ねられたが答えに詰まる。
とりあえず行ってくださいというより他なかった。ワンメーターで到着した。

建物のグリーンのラインが周りの木々と調和し、
こじんまりとした駅舎の河東駅は1968年の晋州-光陽間の開通に伴って営業を開始した。
駅の前には「大統領 朴正煕」と刻まれた慶全線全通の石碑が立っている。

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駅のなかの待合室では座って電車を待つ人が何人かいるが、
1日に10本強のムグンファ号が止まるだけの小さな駅なのである。
駅員のいるきっぷ売り場には観光案内のパンフレットが置いてあった。

そこでしばらく計画を立てた後、結局歩いてバスターミナルに戻った。
行き先は雙溪寺(サンゲサ)。きっぷを買って出発を待った。

ふたたびバスターミナルへと戻ってくると、雨が降り出してきた。
11時出発の雙溪寺(サンゲサ)行きの市内バスに乗り、発車を待つ。
バスの車内はほとんどの席が埋まってしまうほどであった。

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発車するころには雨は本降りになった。
こんな雨の中で山へと向かっていくのはどうかと不安になるが、
ここまで来たら行くしかなかった。

バスが発車するとザーザーと音をたてるほどの豪雨に見舞われた。
そんな悪天候のなか蟾津江(ソムジンガン)沿いの国道19号を北上していく。
川の向こうは全羅南道・光陽市だ。川を境に方言までもが異なるらしい。

さて、蟾津江は韓国でいちばんきれいな川ともいわれており、
この川で獲れるシジミは河東の特産物となっている。
夏になるとシジミの潮干狩りで賑わうそうだ。

この川のシジミは主に淡水と海水が混ざり合うところで生息しており、
熊手をもった女たちが川に入って川底をすくい、シャリシャリと音を立てて砂をふるい落とす。
そのシジミを網に入れてもう一度洗い流すのだという。

強い雨が降り注ぐ川をしばらく眺めていたが、
しばらくすると連日の旅の疲れからか眠りに落ちてしまった。

「雙溪寺行きなのだから終点まで寝ていられる。」
そう思い込み、安心して寝ていたのだが終点は目的地よりも先であった。

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30分ほど寝ただろうか、運転手の怒鳴り声で目が覚めた。
バスを降りたおばさんと運賃のことでもめているようだ。

運転手は矢継ぎ早で怒りの言葉をガンガンと発したあと、
扉を閉めて出発しようとするが、おばさんもなかなか折れない。
ドアが閉まったあともバスの外から”応戦”する。

バスの車内の乗客はわずか数人だったが、
こんなことで何分も言い争われても迷惑である。
そろそろ乗客からも怒りの声が飛ぶのではないかと思ったが意外にも静かだった。

そこから10分ほどで一軒の商店の前でバスが止まった。雨はやんでいる。
終点である。しかし雙溪寺も見えなければ、何の看板もない。
バスの運転手に尋ねると、もう通り過ぎたという。

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2100ウォンの追加料金を請求されたので支払うと、
「10分後に発車するから外で座って待ってて」とぶっきらぼうに言い、
運転手はバスを止めて洗車をはじめた。

バスがUターンし、今度は運転手と一番近い席に座った。
どこから来たのか、いつまで韓国にいるのか、と聞いてくる。
話してみると意外に気さくな方だ。タクシーではこんな話もするがバスでは初めてだ。

雙溪寺(サンゲサ)のバス停が近づくと、ここだと教えてくれた。
運転手にお礼をいい、バスを降りた。

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清流と表現するのにふさわしい川だ。
夏の暑さを忘れさせてくれるほどの風情ある景色がそこには広がっていた。

<参考資料>
한국관광공사 『대한민국 대표 음식 이야기』(넥서스BOOKS 2009年)
Land Portal 韓国を感じよう―郷土・シジミを獲る音
韓国語ジャーナル36号

お昼を過ぎ、そろそろおなかもすいてきた。
バス停の前の道には食堂や売店が何件か並んでいる。
古めかしい木造の建物やデッキは自然と調和したつくりになっている。

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山の国道沿いの観光地ではよく見かける風景なのだが
子どものころ縁日に遊びに来たようなわくわく感を思い起こすかのように、
観光地に行くときの非日常的な気持ちは何か懐かしさをも感じさせる。

デッキから川が見渡せる食堂に入り、座ってみた。
川のせせらぎの音は夏の暑さを吹き飛ばすようだ。心地よい風も流れていく。
そこで頼んだのは「チェチョプフェトッパプ(채첩회덮밥・しじみの刺身丼)」である。

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ニンジンや紫キャベツなどしゃきしゃきとした野菜のなかにシジミがもぐりこむ。
そして赤いチョコチュジャンの辛味と酸味にご飯がからまりあって味を作り出す。
チョコチュジャンの味が若干ながら際立つのだが、スープがそれを中和させる。

6種類のおかずとともについてきたのはチェチョプクク(채첩국・しじみ汁)である。
すこし白くにごったスープのなかにニラとシジミが入っている。
一口すすってみると、シジミのだしがよく出ていて自然そのものの味わいだ。

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とうがらしの辛さで素材の味がわからなくなるときもある韓国の食べ物だが、
チェチョプククはそのものの風味がしっかりと感じられ、からだにもやさしい。
シジミにはビタミンや無機質が豊富に含まれていて、気を引き立てる効果もあるのだ。

シジミは体を冷やすが、ニラには体を温める効果があるため食材の相性も良い。
さらには肝機能を改善する効果もあるので二日酔いにも最適なのである。

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しっかりと腹ごしらえをしたあと、橋を渡りお寺へと入っていった。
春には桜、夏は滝の水しぶき、秋になると紅葉が美しい場所なのだという。
とくに秋の雙溪寺(サンゲサ)は河東8景のひとつとされている。

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雙溪寺は新羅時代の聖徳王21年、唐へ留学していた大悲(テビ)和尚と
三法(サムポプ)和尚が六祖大師・慧能の舎利を持って帰国し、
ここに寺を建てて安置したといわれている。

その後の文聖王2年(840年)、真鑑国師が中国から持ちかえった茶の種を
この智異山(チリサン)周辺に植え、当時、玉泉寺(オクチョンサ)と呼ばれていた寺を増築させた。
その功績により王から雙溪寺という名を与えられたのだという。

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曇りがかった空からうすい光が差し込み、木々の隙間から漏れ落ちる。
7月なのだが、雨上がりの森のなかはそれほど暑さが感じられない。
それにくわわって小川を流れる水の音がさらに体感温度を下げる。

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リュックサックを背負った家族が先を目指している。
この先の山道をもっと歩いていくと仏日瀑布(불일폭포・プリルポッポ)という滝があるのだが
長旅の疲れに負けてここであきらめてしまった。次回は万全の体制で臨みたいと泣く泣く立ち去った。

(完)

<参考資料>
한국관광공사 『대한민국 대표 음식 이야기』(넥서스BOOKS 2009年)
韓の国三十三観音聖地 第十五番 サンゲサ http://www.korea33kannon.com/details/detail15.html



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トム・ハングル(吉村剛史)
吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。31歳。2012年に韓国文化誌『スッカラ』でデビュー、その後韓国旅行、語学Webの編集・ライターを経て、文化センター講座、トークイベントでの発信も。1年8ヵ月のソウル滞在経験のほか、韓国100市郡以上を踏破するなど、地方にも関心が高い。平昌五輪開催の江原道公式ブログにも寄稿中。プロフィールお問い合わせ


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