釜山(プサン)・金井山マッコルリの味を愉しむ
 吉村剛史(トム・ハングル)
 2011/08/04 改:2015/10/31 

1号線の温泉場駅を降りた。ここは東莱(トンネ)温泉の玄関口でもある。紀行作家の鄭銀淑さんが「忘れられない味」と賞した金井山の山城マッコルリをぜひ飲んでみたいと思っていたのだが、やっと訪れる機会ができた。

金井山(クンジョンサン)の入り口となる金剛(クンガン)公園まで歩いて向かう。徒歩でもたった15分ほどなのだが、梅雨の蒸し暑さには堪えられない。一緒にいた韓国人の友達も「暑い暑い」といい、私も汗をびっしょりかいていた。

金井山には初めて釜山に来た2年前にも行ったことがある。しかし山城マッコルリが金井山のどこで飲めるのかもよく知らず、釜山に住むその友人もここに来るのが中学生以来だというから当然わからないはずだ。

それなら「着いたら誰かに聞けばいい」と考え、坂を上がっていった。漢字で「金剛公園」と書かれた門が見えてきた。ここが入り口だ。

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公園の門をくぐると小さな遊園地があるのだが、ここからはもう山の風景だ。少し登っていき、ロープウェー乗り場の前で散歩をしていたおじいさんに山城マッコルリはどこで飲めるのかを尋ねてみた。

そのおじいさんによれば、ロープウェーに乗って上がるといくつかお店があるのだが、もし歩いて目指すなら「十里(십리)」ほどの距離だと話す。

「十里(십리)」という言葉が出てきた珍しさに驚いたが、韓国の「里」という単位は日本の10分の1。十里はおよそ4キロメートルだ。しかし時間はもう17時30分である。歩いて登ると日が暮れてしまう。

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ロープウェーも18時30分が最終だと聞いたので、急いで飛び乗った。ふもとは曇りであるが海抜790mの山頂方面を見上げると、霧ががかって全く見ることができない。

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ロープウェーはわずか5分なのだが、雲のなかへと入っていくと雨が降り出した。気候もひんやりとしはじめ、汗も一気にひいた。

霧がかかった山には強い雨が降りそそぐ。ロープウェーを降りてすぐのお店に入り、山城マッコルリとパジョンを注文する。雨の日にマッコルリとパジョンというのは情緒的でお決まりのパターンだ。

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黄色いラベルには「부산금정산막걸리(釜山金井山マッコルリ)」と書かれている。アルコール度数は8%と一般的なマッコルリより高く、原料は国内産の米100%である。

一口飲むと、口のなかが甘酸っぱさでいっぱいになる。ほかのマッコルリよりも酸味が強く、濃厚な口当たりだ。駅から大汗をかきながら公園まで歩いてきた甲斐があった。

金井山城マッコルリは500年の伝統をもち、人工添加物を使わず、原料は米と麹と金井山の岩盤水だけ。そして昔ながらの製法で作られているのだという。

山城マウルの農家はマッコルリや麹を売ることで生計を立てていたが、1960年以降、法律などにより個人が麹や酒を作ることが禁止されてしまう。けれども、山城村では生活のためにマッコルリを密造していたのである。

朴正煕大統領は釜山を訪れた際に、違法である山城マッコルリの味を楽しんでいたというのだが、ついに大統領の許可によって製造することができるようになった。

しかしマッコルリの製造は地域で1ヶ所しか許可がおりなかったため、そのときにつけられた名前がマッコルリではなく「民俗酒」。山城マッコルリは「民俗酒1号」なのである。(※山城マッコルリについては 参考:鄭銀淑『韓国の美味しい町』(2006年 光文社新書 参照)

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そんな歴史あるマッコルリを飲みながら、山のなかで雨の風景を眺め、パジョンをつまむのは至福の時だ。歩いて山を登ればなおいっそう心地よいマッコルリに酔いしれることだろう。

気持ちよくすべて飲み干し、「もう一本!」と行きたいところだが、ロープウェーの最終時刻もせまってきた。お店で働くハルモニたちも一緒にロープウェーで山を下る。

蒸し暑い曇り空のふもとにまた戻ってきた。おいしいマッコルリの味が口のなかに残っている。




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