住んでみたいリバーサイド・晋州(チンジュ)
 2011/06/15 改:2016/10/04 吉村剛史(トム・ハングル)

慶尚南道・晋州(チンジュ)。
釜山からは西へ100キロ強、バスで1時間半のところに位置する。
人口は34万人。市内には大学が6つあり、20代の割合が高いのが特徴だ。

・ここに住みたい!

「毎朝、川沿いでゆったりとウォーキングができたらなぁ」
この都市を訪れれば、そんな印象を抱くのはきっと私だけではないはずだ。

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南江(ナンガン)が市内を二分するようにして流れ、
広々としたリバーサイドを歩いている人々の姿が見られる。
もちろんジョギングをする人、ベンチで座っている人など様々だ。

夜にはオレンジ色にライトアップされた橋脚の明かり、
川沿いにひしめく低層ビルの看板やモーテルの光が美しく水面を照らす。

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夕暮れ時からずっと南江を眺めていれば、
暮れゆく空と、ぽつぽつと灯りだす街の明かりとの対比が
より一層際立ってみえるだろう。

きっとこの川は市民にとっては憩いの場であるはずだ。
「ああ、こんな街に住んでみたい…毎日散歩したい…」
それが晋州の第一印象だった。

・慶全線を降り立つ

全羅南道・順天を出発し、1時間40分が経過した。
急行列車のムグンファ号が晋州駅のホームに入線していく。
釜山方面に向かう列車は1日にわずか6本のみである。

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低床のプラットホームを降り、線路をまたいで駅舎のほうへと歩いていく。
麦藁帽をかぶった人、短パン姿の人…
2010年7月21日、夏真っ盛りのこの日である。

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この列車を降りたこの人たちはどこへ行くのだろう。
鉄道よりもむしろバスの便がよい韓国。
わざわざ本数の少ない列車でこの町を訪れた理由が気になる。

駅前のロータリーに出ると、一瞬目を疑った。
70年代、80年代を感じさせるレトロな風景だったからだ。

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ハングルで「スーパーマーケット」という看板を掲げながらも、
レンガ造りの小さな個人商店は昔ながらの雑貨屋を思わせる。

そして駅を出て左側には旅行者が飛び込みで利用するような
やはり古めかしいコンクリート造りの韓式旅館が数件並んでいる。

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旅人宿(ヨインスク)、旅館(ヨガン) 晋州市内で

ちょっとノスタルジックな、日本でいう「昭和」的な様子が、
2010年の晋州では見られるのだろうか、と、
ちょっとした期待を胸に、市内の中心地がある南江の方へと歩いていく。
(続)

・晋州橋を渡るとき

晋州駅の前で客待ちをしているタクシーのおじさんに
声をかけられたが、地図をみると中心市街地までは1キロほど。
ここは歩いていくことにした。

10分ほど歩いただろうか、
晋州橋が見える頃には16時をまわろうとしていた。
この時間から宿を探そうと思うと、気持ちもあせりだしてしまう。

そうするとだんだんと歩調が速くなっていくのだが、
橋に差しかかったときは思わず足が止まった。

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広々とした大きな河、そして夏の空。
夕方とはいえ真夏の日差しはきびしく少々歩くだけでも大変な思いだが
この川を眺めたときには気持ち良さのほうが大きくなった。

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一方、反対側の川べりにはモーテルがずらりと立ち並ぶ。
お城の形をしているところは気になるが、ここは韓国。
ビジネスホテルと同じ感覚で行けばよいのである。

・路線バスは難易度「高」

宿に荷物をおき、バス停で晋陽湖へのバスを待っていた
それにしても韓国で路線バスに乗るのは一苦労だ。
旅行者にとっては難易度が高い、といって間違いはないと思う。

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バスが停留所に止まろうと速度を緩めはじめた瞬間から
プレートに書かれた目的地の文字を読み取らなければならない。
自身の動体視力との戦いである。

いくつかのバスを見送ったところで
진양호(晋陽湖)と書かれたバスが目の前にやってきた。
「これだ!」と思い、さっそく飛び乗ったのである。

しかし、乗って数分後、なんとなく感づいた不安が的中してしまう。
バスのアナウンスと、バスの路線図を照らし合わせると、
逆の方角に向かっているのだと気づいたのだ。

こんな経験は1度だけではない。
バス停に路線図は貼られているのだが、
それがどちらの方面に行くバスなのかがわからないのである。

・やっと晋陽湖へ

バスの乗客はみな降りてしまい私1人である。
こんな時間に晋陽湖に行く人はいないのだろう。
まだ外は明るいが、もう18時を過ぎている。

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しかしダムなのにも関わらず山らしい光景は見えてこない。
そう思っていると、バスは脇にそれ坂道を登り出す。
そして一気に登り終えたところでバスは止まった。終点だ。

今にも折り返そうとするバスを飛び降りると、
目の前には壮大な湖が広がっている。ここが晋陽湖だ。

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晋陽湖は1969年に作られた人工湖。
韓国を代表する山、智異山(チリサン)の水が集められたダムである。
湖畔には動物園や遊園地などもあり行楽地にもなっている。

入口の駐車場から湖をみているのだが、
水面に赤く染まる夕焼けも風情がある。

展望台にいけば、美しい夕焼けが
もっときれいに見えるのかもしれないが
どうやって行くのかもわからない、尋ねる人もいないのである。

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人の気配がほとんどない静かな場所。遠くの山々も美しい。
日が沈みゆく風景とこの静けさには、畏怖の念とまではいわないが
なんとなく怖ささえも感じられる。
(続)

・夕暮れの晋州城

ほとんど人がいなくなった晋陽湖(ジニャンホ)。
帰りのバスは来るのだろうか、ひとりで待っているのは何か心細い。
大通りまでとぼとぼ坂道を降りていく。

汗がぽたぽたと流れ落ちる夏の夕暮れ時であるが、
心地よいのは湿度がそれほど高くないせいなのだろうか。

路線バスに乗り、晋州城に向かった。
19時30分をまわり、少しずつ暗くなりかけていた。
バスを降りた通りから最も近い栱北門の門をくぐるとそこは公園のようである。

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晋州城は1592年の壬辰倭乱(文禄の役)に攻防戦が行われ、
金時敏(キム・シミン)を中心とする兵で李朝側が勝利を収めたという名跡だ。
しかし翌年、再度の侵攻により7万人あまりが防衛を試みるも、しまいには陥落した。

緑が多く、公園のような城内から南江を静かにみつめる。
南江にかかる橋と水にうかぶ小舟の模型、
そして橋脚のあかりが水面にゆれてうつる。

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夜になるとライトアップされる夜景もまた良いものだが、
慶尚道で最も美しい楼閣といわれる矗石楼に灯りだすライトの光と、
またほのかに明るさののこる夕暮れの空とのハーモニーは美しい。

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夕方の城内を散歩しながら歩くのは心地よい。
晋州の最初の記事で「住みたい街」というタイトルを掲げたように、
とても静かで、環境のよい静かな街であることはここからもうかがえる。

矗石門を出るときにはもう20時になっていた。
こんなにゆったりとした雰囲気につつまれた晋州城。
食事をするのも忘れてしまいそうだ。

店が閉まる前に、と駆け足気味に歩いていく。
ほんとうは晋州の名物であるウナギを味わうために
ここまでやってきたのだから。

・夜景さんぽ

南江沿いを夜に歩くのもまたおすすめだ。
薄明るい街灯の下でジョキングやウォーキングをする人もみられる。
夏の暑さのなかでも南江の川べりは心地よい。

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そんな気持ちの良い雰囲気にのまれ、ベンチに座った。
韓国のビール「HITE」をプシュッとあけてみる。
おつまみにしたのはヘテのバターワッフルである。

川でビールを飲むと思い出すのは、
初めて韓国に行ったとき友達と清渓川(チョンゲチョン)でビールを飲みながら
いろいろと語っていたときのことだ。

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清渓川は都会のオアシスといった雰囲気であるが、
ここは生活のなかの休息の場所であるかのようだ。
草が茂っていて、虫の音が聞こえてくる。

そして橋脚のオレンジ色の光が夜の川を輝かせ、
さらには川辺のモーテル、低層ビルの看板のネオンも水面に映る。
自然と人工的な雰囲気が融合しているような、そんな場所だ。

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ビールを飲み干し、
ほろ酔い気分で川沿いを歩いてみた。
真夏の夜、じっとしているだけでも汗が流れるのだが気分は爽快だ。

小さいカメラで夜の風景をとらえると、
手の動きで光がぶれてしまうが、ほろ酔い気分のときの目と似ている。
まるでプリズムを通しているかのように光が水に輝く。

・晋州にとまる

地方を旅するとき、宿を予約していくことはほとんどない。
あちこちに泊まる場所があるので、とくに心配はいらないのである。

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晋州の市外バスターミナル周辺には
数多くの民宿やモーテルが存在しているし、
また東邦観光(トンバンクァングァン)という観光ホテルもある。

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川沿いのモーテルはあまりにも強烈なネオンが輝いていて、
カップルでないと入りにくいかな、と思うことがあるのは否めないが
多少落ちついたところもあるのでご安心を。

かなり気にしない性格の私であるとはいえ
さすがに私も写真のようなモーテルに1人で泊まることは避けてしまった。

目星をつけたモーテルに入ってみると外装よりも古い印象だった。
料金を聞くと、「川が見えないほうが35000ウォン、見えるほうが40000ウォン」とのこと。
決して安くはないが、南江に面しているという場所柄もあるのだろうか。

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それにしても眺めはとてもよかった。
水面に空の様子が写るというのは見ていても気分がすっきりする光景である。

とくに地方はビジネスホテルともモーテルの区別がない傾向にあるので
気にせず入ってみるのがいいかもしれない。
歩きながら入りやすそうな宿をぜひ見つけてみていただければと思う。
(続)

・晋州ウナギ

今回で最終回となる晋州の旅行記。
晋州での本来の目的はウナギを食べるため。
これを抜きにしてはこの旅は語れないのである。

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晋州城のすぐそばにはウナギのお店がずらりと並んでいる。
韓国にはその場所一帯が同じ食べ物を出している横丁がとても多いのだが、
ここもその1つ。

その中でも一番長い歴史をもつのが、
流情長魚(ユジョンチャンオ)というお店。
30年以上の歴史をもつ名店である。

しかしどのお店に行こうかと迷いに迷ったあげく、
選んだのは南江長魚(ナンガンチャンオ)。

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窓ガラスにはテレビで放映されたという表示がなされている。
また2階の窓辺からは南江を見渡すことができ、
景色を眺めながら食事をすることができる。

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メニューを見ると2種類のウナギがあるようだ。
민물장어(ミンムルチャンオ)と바다장어(パダチャンオ)。
淡水ウナギと海水ウナギである。

両方を食べ比べてみたかったが、
ここはミンムルチャンオ(18000ウォン)を注文した。
そしてソジュは慶尚南道のホワイトである。

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パンチャンは5種類ほどついていたが、
この日の昼食までは全羅道での食を堪能してきたため、
これには物足りなく感じられてしまった。

けれどもこれが普通の量。
前日の昼は26品、夜は10品、その日の昼は15品だったので
そう思うのも無理はないのだ。

そしてウナギを食べてみる。
ヤンニョムで味付けされたものと、塩焼きの2種類があるのだが
今回は後者。塩焼きといってもタレで味付けされている。

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晋州のうなぎは淡白という特徴があるのだが、
まさにそんな感じであった。
そしてとても柔らかいので食が進む。

エゴマの葉やサンチュに
ニンニクを入れてくるんで焼肉のように食べる。
刺身でもウナギ焼きでもこのようなスタイルだ。

さてレジで私の前を並んでいた4人組のおじさんたちが、
「きょうはオレが払うから。いいから先に出て」
「いやいや、きょうはオレが…」と、小競り合いになっている。

ああ、韓国らしい光景だなあと思って見ていた。

ソジュの酔いが回ってきたせいであろうか。
南江の水面にうつる光がゆれて、鮮やかに見える。

翌朝には統営に向かわなければならない。
慶尚南道・晋州の旅行もクライマックスだ。

(終)



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トム・ハングル(吉村剛史)
吉村剛史(よしむら・たけし) 1986年生まれ。韓国旅行・地方旅の総合発信者。2012年に韓国文化誌『スッカラ』でデビュー、その後韓国旅行、語学Webの編集・ライターを経て、講座、トークイベントでの発信も。これまで韓国100市郡以上を踏破。平昌五輪開催の江原道公式ブログにも寄稿中。プロフィールお問い合わせ


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